冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

ガレイタム王宮にて

 豪奢な馬車から降ろされたセシリーは、目の前の巨大な建造物に人生最大の衝撃を受けていた。おそらくセシリーが小一時間走ったくらいでは周囲を回りきることはできないと思われるその圧迫感と重厚さに、呼吸がおかしくなりそうだ。

(ど、ど……どうしよう。私、生きて帰れないかも知れない)

 ――ガレイタム王国・王宮。王都を威圧感たっぷりに睥睨(へいげい)するようなこの宮殿に足を踏み入れたセシリーが真っ先に抱いたのは、そんな感想だった。

 立ち並ぶ灰鼠色の尖塔、行き交う気品ある人々。こんな場所で自分は、間違いなく異物に違いない。隠れたい……そう思ってセシリーは周囲を見渡すのだが、その肩はがっしりとつかまれ、迫力のある笑顔が肩に迫る。

「ん~どうした? 中に入らんのか」
「ひえっ……」
「化物でも見たような面をしおって……着いてこい」

 吊り上がった黒瞳の主・王太子ジェラルドに背中を叩かれたセシリーは、色々な言葉を飲み込みながら、この場で唯一の知り合いが横をすり抜けたのを見てやむなく後を追う。
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