冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ラケルは不満を顔に滲ませたが、すぐに深く頭を下げると扉を大きく音を立てて閉め出てゆく。張り詰めた雰囲気が途切れ、セシリーはようやく息を吸うことができた。

「すみません、まさか商会があんなことになってるなんて思いもしなくて……」
「いえ、私もてっきりオーギュスト氏から事情を聞いているものだと思っていました。話を共有しておくべきでしたね。しかし、普段のラケルなら……決して自分から進んで人を傷つけるようなことはしないはずなんですが。優しい子ですからね」

 その言葉についセシリーは苦笑した。あえて叱責だけで済まさず厳しい処分を下したのもキースのラケルへの信頼の証なのだろう。

「キースさんって、やっぱりお兄さんみたい」
「む……私には兄弟などいないんですが、一応年長者として未熟な精神面は補ってやりませんとね。これも将来、私が楽をするための投資のひとつです」
(またそんなこと言って……)

 照れ隠しの皮肉に一層笑みを濃くしながら見つめていたセシリーの後ろで、扉が叩かれた。入室の許可を得たロージーは、少し慌てた様子で入って来る。
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