冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ラケルがふらっと立ち上がると、セシリーに近づいて見下ろす。

 いつも見慣れたその赤い瞳は照明に照らされず、今は血のように少し暗く見えて、セシリーは暴徒を退けてくれた時と同じで少し怖くなった。

「ど、どうしたのラケル……」

 彼はそのままゆっくりと体を近づけてくる。

「ねえ、セシリー。僕はさ……魔法騎士団の皆が好きだ。団員の人たちやキース先輩、そして団長のことはものすごく尊敬してる。リュアンさんみたいになりたいって憧れてた。でも今は、その人たちの信頼よりも……他にもっと、手に入れたいものができちゃったんだ」
「ま、待ってラケル。ちょっと痛い……」

 彼が肩に乗せた手が強い力で握られ、セシリーは呻いた。瞳はじっと、毛筋ほどの揺るぎも見せずセシリーの瞳を覗き込んでいる。

 セシリーはたまらず椅子を倒して地面に倒れ込んだ後、後ろの扉から外に出ようとした。だがその前でラケルは壁に強く手を付き、身を縮めるセシリーに覆いかぶさるように彼女の行動を止めた。
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