冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

行ってきます

 その頃のファーリスデル王国・王都では――。

 時計塔の最上階で、もう十数時間も顔を上げていなかったフレアが、西側の壁を見た。

 その方角では今、レオリン率いる王国軍……そしてセシリーが恐ろしい魔物たちや、暗黒と戦っている。心なしかわずかに、頭上を覆う重苦しい気配が取り払われた気がする。しかしすぐにフレアは、姿勢を正し祈りに戻る。

(皆きっと、力の限りを尽くしてくれている。そしてセシリーがひとりで暗黒を封じるために行ってくれた。ここで私が緩むわけにはいかない……。お願い……女神様、皆をお守りください!)
「ニャ……」

 太陽の女神の眷属たるサニアという黒猫も、ずっと彼女に寄り添うようにし、遠くを睨んでいる。そんな様子を溶けた鉄扉の外から見た護衛の正騎士のひとりが、陰鬱な声を漏らした。

「本当に、この国は大丈夫なんだろうか? 国王様は王太子の帰還を信じて待つように言われたが……俺たちはこうしていていいのか?」
「おい、不謹慎だぞ」
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