6月、高嶺の花を摘みに
はぁ、とため息をつきそうなのを堪えて目をあげる。

そこには睨みの効いた若い男の顔があった。

「ぼんやりすんなよ。ちゃんと前見ろ」

なんで怒られなくてはいけないのか、それだけが一向に分からない。

私がぶつかりに行ったわけじゃない。

確かにぼんやりしていたところはあっただろうけど、ぶつかったのは完全にあなたのせい。

「ごめんなさいね」

きっとこの人は年上だ。

それでも罪をかぶせてきた罪は重いもの。

嫌味ったらしく、それでいて冷静な「ごめんなさいね」は今できる最大の攻撃だった。

手を出すのも相手はもちろん男。

勝てる自信なんてこれっぽちもない。

冷静なのは大切だ。

冷静さを保っているこの私のほうがランクが上でいてもいいくらい。

結局、男の顔はちゃんと見なかった。

目に残しておくことさえも嫌だったから。

その場から立ち去る私を、彼はきっと呆然と眺めていたのだろう。

それはもう、さっきの私みたいにぼーっと。

本当のことは知る余地もないけれど。

   *
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