元彼専務の十年愛

Side 隆司



「隆司くん」

聞き慣れたしゃがれ声に振り返ると、社長が歩いてきた。
社長はいつも、俺のことを苗字ではなく下の名前で呼んでくれる。
『佐藤』がありふれているからというのもあるだろうが、颯太の相棒ということで親しみを持って接してくれているのだ。

「社長、お疲れさまです」
「ああ、お疲れさま。少しいいかな?」

颯太と同じブラウンの瞳が俺を覗き、「ええ」と答える。
VIP階層の一番端にはラウンジがあり、南東の角になっているこの場所からはビル群が一望できる。
そこの長椅子に隣り合って腰かけた。

「有沢紗知さんのことなんだが」
「はい」

この話題だろうと思っていたから驚きはない。
むしろもっと早く問われてもおかしくないと思っていた。
その時は、俺には何も言えないと濁そうと思っていたが、今は正直に話そうと思う。

「彼女は颯太の学生時代の恋人だったんだね?」
「ええ、そうです」

社長は「やはりそうか」と懺悔のように呟いた。
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