元彼専務の十年愛
祖父はどこまでも非道な人だった。
実家は売りに出されることになり、高校にも退学届を出され、戻れる場所はどこにもなくなった。
その後はすぐに留学のため渡米することになった。
けれど父の配慮で、引越しの準備という名目で一日だけ地元に帰る時間をもらえることになった。
しばらく電源が切れっぱなしだったスマホを充電すると、画面に表情されたのは『7月30日』。

…ああ、なんでよりによって今日なんだ。
幸せな日を迎えられるはずだったのに。
彼女を喜ばせることができるはずだったのに。
東京に戻ればスマホは取り上げられることになっている。
いつ日本に帰って来られるのかわからないし、自分が今後どうなっていくのかも定かじゃない。
横暴な祖父に逆らって、紗知が被害を被るのは絶対に避けたい。
だからもう…
俺のことなんか早く忘れて、新しい恋を見つけてほしい。
俺は最低な元彼のレッテルを貼られて罵られてもいい。

『別れて』

平静を装うことに耐えられなくなって、すぐに背を向けて歩き出した。
目の前はもう滲んで見えず、雫が頬をつたったが、涙を拭う仕草をすることはできなかった。
彼女が見えない場所まで、俺は最低な男でいなければならなかった。

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