忘れられない恋
〔新歓前日〕
玉造《たまつくり》温泉の湯けむりの風の中に、
ほのかに香るバニラに似た桜の甘い香り。
すっかりと桜で染まった春の新しい風が吹く今日、
新学年へと上がったバスケ部員たちが体育館で練習に励んでいた。
「仁《じん》、明日の新歓行ってくれ!」
突如、
男子バスケ部キャプテンの春名《はるな》が仁に告げる。
数秒の間、仁は理解に苦しんだ末、
絞り出した言葉は敬語ではなくタメ語。
「は!何で俺が?!」
明日は新入部員勧誘会があり、
入学したばかりの一年生に、
部活動の紹介をする日だった。
うちの男子バスケ部は、
県大会出場という目標を掲げているが、
正直に言って一回戦突破できるか、
できないかの実力。
新歓で新戦力確保はバスケ部にとって、
最重要項目であり、チームの底上げは必衰なのだ。
だからといって、他にも部員がいる中、
何故、自分をチョイスするのか、
仁は訳が分からないでいる。
出来ることなら自分ではなく、
キャプテンが行けばいい話。
自然に嫌な表情を浮かべ、乗り気になれないでいると、
キャプテンは不適な笑みを浮かべながら仁に躙《にじ》り寄った。
「それはお前がイケメンだからに決まってんだろ!」
……はい?
なんだ、その理由は……理解に苦しむ。
それより、
大きく足を広げ、片方の手は腰に、もう一方の手を前に突き出しながら、
名探偵ポーズを決めるキャプテンをひとまず蹴りたい。
そもそも、
なぜ顔で選ぶ必要があったのか、
未だ解明されていない謎を解こうとしたら、
キャプテンは続けて口を開いた。
「イケメンのお前が新歓に行けば、必ずマネージャーが入ってくれるはず。
これは先手必勝で、他の部なんかに負けられない戦いがもう始まってるんだ。
いいか?
去年みたいに野球部に可愛い子を全部持っていかれることだけは阻止したい。
バスケ部の命運はお前の顔にかかってる!
だから、頼んだぞ!!!」
なんだ、その考え……
欲しいのは部員よりマネジャーなのかよ!!
弱小チームが県大会出場とかでかいこと言ってんなら普通、
マネジャーよりも戦力になりそうな部員の方が先だろ。
親指を立て、グッドポーズでこちらを見ているキャプテンはやっぱり蹴っておこう。
訳もわからぬビジュアルだけで選出された納得のいかない選考基準のせいで、
仁は強制的に新歓へ行くことが決定した。