そして消えゆく君の声

再会

『今日は雪乃と遊びに行ってきます。また連絡するね』


 文末に指で作ったハートの絵文字をつけて、送信ボタンをタップする。

 聞き慣れた送信音が上がって、無事にメッセージが送られたことを確認してから、私はいそいそと玄関へ向かった。


 送りなれた両親への連絡。
 いつも通りの平凡な文章。

 なのに胸がドキドキしているのは、きっと嘘がまじっているから。


(ちょっと早いかな……でも、待たせるよりは待ったほうがいいよね)


 買ったばかりのサンダルだから、歩くのに時間がかかるかもしれないし。


(本当は、もっと歩きやすい靴のほうがいいんだろうけど)


 今持ってるスニーカーって、長いあいだ履いてくたびれたものばかりだから恥ずかしい。

 そんなこと別に気にしないだろうけど。 
 黒崎くんは。




 黒崎くんから連絡が来たのは七月の終わり、台所のカレンダーをめくろうとしていた時だった。

 要さんの電話以来軽い携帯恐怖症になっていた私は、まず素っ気ない文章に安心して、次いで「来週出かける」の言葉にソファへ倒れこんだ。


 要さんから言われた言葉を忘れたわけじゃない。


 でも、だからこそ嬉しかった。

 必要とされているようで。
 力になれるようで。

 足をばたばたさせながら何度も文章を読みかえして、


『来週なら、いつでも大丈夫』


 と、短い返事を打った時、私はほんの少し目尻を濡らしていたと思う。
 
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