そして消えゆく君の声
「ホタル……」


 黄と緑に明滅しながら、尾を引いて舞うホタル。

 光は幾筋にも重なり、絡まり、眠ったようだった風景に一瞬の明かりを与える。


 この世のものとも思えない風景に、無意識のままふらりと立ち上がろうとすると、幸記くんのくれた忘れ草が耳元から滑り落ちて。


「あっ」


 あわてて手を伸ばしても間に合わず、おぼろげに浮かぶ橙の花はひらひらと清流へと落ちていった。

 ゆっくり
 ゆっくり
 ホタルの光を受けながら。


「ごめん、せっかく幸記くんが」

「いいよ」


 行き場を失った手を胸にあてて謝る私に、幸記くんは前を眺めながら微笑んだ。


「あの花は本当にすぐ散ってしまうんだ。だから、故郷の川に流れるのも悪くないんじゃないかな」


 大人びた声でそう言うと「それより見て」と宙を見上げる。

 つられて上を見ると、空を覆う雲はいつの間にか切れていて、ぽっかりと浮かぶ月と幾千もの星が私たちを見下ろしていた。


 頭上には満天の星。
 目の前には闇に舞うホタル。

 ただただ目を奪われる光景に、黒崎くんはどうしているんだろうとそっと顔を横に向けると、黄の光に照らされた黒い目は何かを懐かしむようにおとぎ話めいた風景を眺めていた。
 
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