そして消えゆく君の声
「うん、適当にビーチサンダルか何か買おうと思う。帰り歩くだけでもけっこうきつそうだし」

「歩けないならまた抱えてやるけど」

「ええっ!?」


 奇声を上げる私を無視してぺたっと絆創膏を貼ると、背の高い身体はさっさと立ち上がる。


「冗談」


 ……
 …………

 …………び、びっくりした。

 まさか黒崎くんが冗談を言うなんて。
 というか、今のって冗談だったんだ。普通の顔して言うから全然わからなかった。


 も、もちろん冗談じゃなきゃ困る、けど。




 そうこうしている間にも時計の針はクルクルと円を描いて、気付けば日付変更まであと少しという時間。

 部屋にはテレビや映画のDVDもあったけど到底見る気にはなれなくて、私たちは明日にそなえて休むことにした。

 私はベッドで。
 黒崎くんと幸記くんはそれぞれソファで。

 部屋の半分近くを占めるベッドをゆずってもらうのは心苦しかったけど、絶対にソファで寝るとだだをこねるのもいっそ一緒に寝ようって言うのも二人の親切を無碍にするような気がして、結局、お言葉に甘えさせてもらうことにした。


 知らない部屋の、知らない寝床。


 眠れるかなと心配だったけど、疲れた身体はあっと言う間にまぶたを重くして。

 それは二人も同じだったのだろう。

 会話らしい会話もないままクッションに沈み込んだ。
 
< 141 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop