そして消えゆく君の声

挿話 手紙

 家に帰りついたころには、日はほとんど落ちかけていた。



「ただいま」



 帰宅の挨拶もそこそこに、僕は急ぎ足で自室を目指した。

 別に人の目を避ける理由はなかったけれど、誰かに荷物を見られて、それは何かと聞かれるのが嫌だったから。

 大事な大事な宝物を、いらない詮索に晒したくない。


(こうして持つと、結構重たいな)


 右手に持った銀色の紙袋は、ずっしりと重量がある。

 こんなに重たかっただろうか。台座が付属しているせいだろうけど、それにしても。細い持ち手がぎゅうと指に食い込んで、関節をきしませる。だから。


(きっと、幸せがつまっているからだ)


 そう考えると、痛む五指がぐっと楽になった。

 もう片方の手を袋の底に添えて、抱えるようにしながら、角ばった箱のかたちを確かめる。

 大きな袋。
 大きな箱。

 あちこちを探して、ようやく見つけた取扱店は通信販売をしておらず、電車を乗り継いで買いに行ったけれど、手に入って本当に良かった。


 この中には二人分の幸せが包まれている。

 僕と、僕の大切な人の。
 
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