そして消えゆく君の声
 関川の方角に歩いた記憶なんてないのに、いつの間に。

 目をぱちぱちさせる私の横で「あーしつこかった」と首を鳴らす要さん。面倒そうに寄せられた眉間からは、さっきまでの優等生然とした雰囲気は消えている。 


「遠足ご苦労さま。後つけてる奴がいたから撒いたんだよ」

「後を、って」

「俺のファンか何かじゃない? 世の中には暇を持て余してる人間がいるから」


 涼しい顔でとんでもないことを言うと、勝手知ったる様子で扉を開いて手まねきする。


「び、尾行とか多いんですか?」


 どう見ても関係者以外立ち入り禁止な扉に入るのは抵抗があったけど、もたもたしていて誰かに見られても困る。

 細い隙間から身を滑りこませながらたずねると、要さんはこともなげに言った。


「まあ、たまにね。俺の私生活は謎に包まれているらしいから」

「大丈夫なんですか? あの、私と一緒にいるところを見られて……」

「俺が日原さんに個人的な興味があるなんて誰も思わないから平気でしょ、日原さんが素行不良で注意されたと思われる可能性はあるけど」

「ええ……」


 眉を寄せた私を見てからからと笑う様が雪乃の言う裏の顔なのか、それとも学校での姿が裏なのか。

 やっぱり、要さんも不思議な人だ。
 
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