そして消えゆく君の声
 たずねた理由はただの我儘だった。こんなつらいこと簡単に言えるわけがない。しゃべるだけでも傷口は開くのだから。

 今話しているのも、私の言葉に、好意に追いつめられたからだってわかっている。


 ……わかっていても、胸を刺す痛みと無力感は消えなくて。


「私が、信用できなかった?」


 不安を消したくて問いかけた私に、黒崎くんは短く首を振った。


「誰かに話せば、どこかから征一さんの耳に入ってしまうかもしれないから。征一さんが、自分に起きた事故を知ってしまうかもしれないから」


 また首を振る。

 じゃあどうしてと奥歯を噛みしめると、かたく閉じられた唇が薄く、薄く開いた。


「…………怖かった」


 声は弱弱しかった。



「日原に軽蔑されるのが怖くて、本当のことが言えなかった」



 悲しく響く呟き。

 何て言えばいいのかわからなくて、たまらず右手を伸ばしかけた私を黒崎くんは片手で遮った。

 何もかも諦めた目を濡れたアスファルトに落として。


「お前の好きな黒崎秀二なんて、存在しない」


 最初から、どこにもいなかった。


 降りしきる雨が、冷えた空気が、吐息を白く濁らせる。ずっとぬくもりを避けてきた両手は、雫を避けようともせず。


 雨ざらしでうつむく横顔は、寂しい子供みたいだった。
 
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