そして消えゆく君の声

挿話 流星群2

 どこをどうやって走ったのか思い出せない。


 吐く息が熱くて、目の奥がずきずき痛んで、足は神経が焼き切れたように感覚がない。

 階段を一段上がるごとに心臓が跳ねて、口から飛び出しそうだった。


 その昔、あの場所から星を眺めてみたいと話し合った廃ビル。

 とうに記憶から消えていた背の高いシルエットが唐突に脳裏をよぎったのはただの直感で、根拠なんてなかった。


 だから、もしも違っていたら、間に合わなかったら、俺も死のうと心のなかで何度もくり返した。


 破裂しそうな鼓動。勝手に溢れそうになる涙。重たい扉を開くと、目の前に濃紺の星空が広がっていた。



「――いい夜だね」



 今夜は流星群が見られるらしいよ、と普段通りの笑顔で振り返ったその人に、膝から力が抜けそうになる。

 間に合った、と思った瞬間気道が狭まって、何度も咳き込む。

 頬を刺す空気は真冬並なのに全身の血が沸騰したみたいで、暑いのか寒いのかわからない。


「……てがみを読んで」


 ここに、いるんじゃないかって。


 全身を引きずるようにして歩を進めながら、俺はなんとかそれだけを伝えた。
 
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