そして消えゆく君の声
「……」

 弟は返事をせず、仰向けの体勢のままただ頭上の空を見ていた。白く燃える光が、ひとつ、またひとつ尾を引いて流れていく。

 そういえば、自分はここで流星群を見ようとしていたのだった。予測通りに出現した天文現象は、実際に目にしたところで何の感慨も生み出さなかったけれど。


「兄さんは」


 やがてぽつりと呟かれた声は少し掠れていた。濡れた瞳に、深い藍色の空が映っている。


「兄さんは、何か願い事って、ある?」


 おそらく、流れ星に願いを託すと叶うという言い伝えの話をしているのだろう。宇宙の塵がプラズマ化することと個人の願いに何の関係があるのかはわからないけれど、何か雄大なもの、自然の力が奇跡を起こすという想像は自分もしたことがある。


 願いは、きっとあるのだと思う。

 でもそれを星に伝えるのは難しい。自分自身でも、どんな形をしているのかわからないのだから。


 ただ、そこに至るための鍵がどんな形をしていたのかは知っている。何を願っていたのか。望んでいたのか覚えている。何も叶わなくても、それだけあればいいと思っていたこと。

 だから、青ざめた顔を伝う血にそっとハンカチを押し当てながら答えた。



「――僕の願いは、秀二の幸せだけだよ」



 それが自分の幸せだったことだけは憶えているから。
 
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