そして消えゆく君の声

明けの空

 窓から差し込む西日が、病院の白く清潔な壁をオレンジに染めている。

 
 二人で話をしたいという黒崎くんを廊下で待っている間、私は窓越しに広がる景色をぼんやり見下ろしていた。

 総合病院らしい大型の駐車場の手前には梅の木が植えられていて、ぽつぽつと咲き始めた白い花が、冬の寒々しい風景に彩りを添えている。

 幸記くんの部屋は池を囲むようにして作られた綺麗な庭園に面していて、すこし早起きの花々や、春を待つ草木がよく見えた。
 

 あと一月もすれば、きっと、色とりどりの花でいっぱいになると話す幸記くんの横顔を、楽しみだねと返した時の曖昧な笑顔を思い出すと、胸の奥が押しつぶされたように重たくなる。

 どうか、幸記くんが穏やかで優しい時間を過ごせますように。美しいものに触れられますように。一緒に笑えますように。ほんの少し前の出来事なのにどうしようもなく遠く感じる、三人で過ごした頃のように。 


 腕の中の上着をぎゅっと抱きしめると、磨りガラスの小窓に淡く透ける背の高い人影が見えた。
 
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