そして消えゆく君の声
 どうしよう。

 無理強いはよくないけれど、このままだと風邪をひいてしまうし、服だって、家に帰るまでにかわかしておいた方がいい。

 うーん、と悩むこと十数秒。
 私は思いきって強硬策に出ることにした。


「わっ、な、なにっ…」


 肩をつかんで、ちょっと強引な手つきで幸記くんのシャツに手をかける。


「ごめん、でも冷えるからっ」

「や、ちょっと、やめっ……!」


 本気で嫌がる幸記くんを見るとなんだか自分が暴漢にでもなった気がするけど、非常時だし許してほしい。

 数個だけとめられたボタンを外して、長い裾を手前に引っ張る。

 けれど、濡れて張りついた布の下からあらわれた肌を見た瞬間、私はびくりと動きを止めた。

 同時に、幸記くんがサアッと青ざめる。


「これ……」

「……」

「これ、一体……」


 言葉が出ない。

 へたりこむように膝立ちの体勢を崩して、ただただ両の目を見開く。


 見てはいけない、反射的にそう思ったけど。


 幸記くんのあばらが浮くほど痩せた身体、そこに残る痛々しい傷痕から、目をはなすことができなかった。
 
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