そして消えゆく君の声
 華奢な右手をひらひらさせながら近付いてきたのは、友達の野宮雪乃だった。

 雪乃とは中等部の入学式でとなり合った時以来の付き合いだ。

 人目を引く華やか外見も、思ったことをはっきり言う性格も私とは大違いなのに、気がつけばいつも一緒にいる。


「雪乃、おはよう……って、あ」


 片手をあげながら振りかえった途端、視界のすみで動いた影。

 とっさに呼び止めようとしたけれど、朝陽に映えるきらきらの笑顔がやってきた時にはもう、黒崎くんは私の横をすり抜けていた。

 ほんの少し触れた硬い肘の感触。
 軽く瞬きした頃には、背の高い後ろ姿はもう見えなかった。
 

「……行っちゃった」

「おはよ。どうしたの、黒崎なんかと話してさ」

「昨日傘貸してくれからそのお礼。の、つもりだったんだけど」

「あいつが傘ぁ? なんか下心とかあるんじゃないの」


 癖のないきれいな髪をかき上げて、唇をとがらせる雪乃。

 よっぽど不愉快だったのか、形のいい鼻にはキュッとしわが寄っている。
 
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