そして消えゆく君の声
 鼓動がひときわ大きく脈打った。
 

 黒崎秀二くん。
 私の好きな人。
 助けたい人。

 たくさんの傷を抱えている人。


「………」


 だから、私はそれ以上迷うのをやめた。


「いつ、ですか」


 かたくこわばった声。口にたまる唾液をごくりと飲み込んで、私は「要さん」の返事を待った。

 白く塗りつぶされていた意識が五感を取りもどして、カチカチと響く秒針の音が、急にはっきりと聞こえ始める。


「そうだな、俺もいろいろ忙しいし明日でもいい?」

「明日ですか?」

「無理なら別の日にするけど」

「いえ、大丈夫……です」

「そ?じゃあ場所と時間だけど、関川の西口を出てコンビニ横の通路を進むと黒いビルがあるから、そこの三階。看板出てないけど多分わかると思う、一時集合ね」


 関川駅は桃山駅から20分ほどの、ビジネス街と繁華街が混じった大きな街だ。私もたまに服や雑貨を買いに出かけていた。


「ああ、デートって言っても夜まで付き合わせるつもりはないから。心配しなくてもいいよ」

「えっと、あ、わかりました」

「……冗談だよ。んな緊張する必要ないって」


 からかうように笑うと、「要さん」は「じゃあね」と電話を切った。


 …………。


 短い沈黙、そして、糸が切れたように脱力する両ひざ。

 縞模様のラグに座り込んで、私は深く長い息を吐きだした。
 
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