数十分前までいた駅名が聞こえてきて、思わず降りた。
いつの間にか一周していたらしい。
いつもの癖で降りてしまった自分が憎い。

そこからふらふらと歩いて、よく二人並んで座ったホームにあるベンチに一人、気付いたら数時間が過ぎていた。

私と彼の三年間が詰まっている街。

彼に『遊びに来る?』と言われ、『君のものが増えてきたね』と喜ばれ、『物が多すぎない?』と冗談めかして笑われたことを思い出す。
そして『全部送るね』と俯かれ、もう空気のように抜けて萎んでいった場所。

それでも、ただ、ホームの向こう側に見える街並みから目をそらせずにいた。

あの場所に私たちは一緒にいた。
一度も二人の姿を外から見たことはないのに、その景色だけ白く切り取られているようだった。


帰ろう。

私はそっと立ち上がり、ホームにいる人だかりの後方に並んだ。

電車のドアが開き、生々しい喧騒が近付いてくる。
力なく立っていた私は、電車から出てくる人たちに押し流されていった。
人の流れに逆らう力もなく、私は振り返る。
改札で引っ掛かり、私は駅員に『間違えて入ったので』と入場を取り消してもらった。

そうやって「間違い」を取り消せたらよかったけど、そもそも何が間違いだったのだろう。
考えてもそれは憶測を過ぎず、ただ棘がより深く刺さるだけだった。


駅前の広場は終電間近にも関わらず賑わっていて、街は人工的な光で溢れていた。
喧騒の中に身を置こうとしても、また人波に背中を押される。
< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop