月がてらす道

 果たして、竹口自身はみづほの実家も現在の居場所も知らなかったが(手元にある年賀状は元のマンションの住所で来ていた)、彼女と仲の良かった女子部員の何人かには覚えがあると言った。尚隆が事情を包み隠さず話すと、しばしつるし上げのようにからかわれた後、元女子部員の誰かなら知っているかもしれない、連絡を試みてやるよ、と請け負ってくれた。
 竹口は、若干冗談の過ぎるところはあるが、幹部が指名で決まるサークルの中で部長をやっていたぐらいだから、頼りがいは間違いなくある。だから、彼に任せておけばきっと何とかなる、そう思えた。
 頼んでから半月ほど経った頃、竹口の方から経過報告の電話があった。4人に連絡を取ったところ、残念ながら3人からは「知らない」との回答が返ってきた。残る一人がみづほと一番親しかった女子だが、彼女は現在NGO団体に所属、理系卒の経歴を生かして発展途上国の生活向上に尽力する活動を行っているため、日本にはいない。だが中学からの友人だった彼女、村松佐和子なら知っている可能性は高いから、連絡が付くまでメールを送り続けてみる──と。
 そしてさらに半月以上が過ぎた今日、村松嬢からの連絡が竹口のもとに届いたらしい。内容が急を要しているようだったからと、メールではなく国際電話で。
 『みいちゃんの実家ね、古い年賀状かアドレス帳見ればわかるはずなんだけど、どっちも手元になくて。実家の親に頼んで、年賀状探してもらってるから、もうしばらく待ってて』
 みづほを「みいちゃん」と呼び、一言も残さずに会社を辞め姿を消したみづほのことを、非常に心配していたという。
 『誰が探してるって、広野くん? ふうん、本気で?』
 と、尚隆に対しての、ある種辛辣な物言いもしっかり付け加えられていたと、竹口づてで聞かされた。それだけ親しい間柄であるならば、大学時代の件もとうの昔に、みづほから聞いているのかもしれなかった。
 「てなわけだから、もうちょっとしたらわかると思う。悪いな、時間かかっちまって」
 「いや、そっちのせいじゃないし、仕方ないだろ。こっちこそややこしいこと頼んじまってすまない」
 「住所わかったらどうすんだ、会いに行くのか」
 「当たり前だろ」
 そのために今、探しているのだ。このまま関係がフェードアウトすることなど、到底認められなかった。
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