契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
『どうして皆、結婚したがるんだろう?』
 
誰かを愛し愛される。
 
生涯を共に生きたいと願う気持ちは、理屈ではない。
 
強く心の奥底から湧き起こる、説明がつかないものなのだ。

絶対に許されない相手でも、まったく関係がない。
 
……でも。
 
知りたくなかったと楓は思う。
 
彼に対するこの気持ちは、彼から見たら契約違反であり、迷惑でしかないのだから。もし知られてしまったら、今のこの瞬間楓に親切にしたことも、彼は後悔するだろう。
 
彼のTシャツをギュッと握り彼の胸に顔を埋める。

すべての不安から目を逸らす。背中に触れる大きな手が、トントントンと優しくそこを叩きはじめる。

その感覚に楓の胸は締めつけられて、泣き出しそうになってしまう。

自分を包む力強さもリズムを刻む温もりも、今だけのものなのだ。
 
決して手には入らない。
 
望んではいけない。
 
そう自分に言い聞かせて、楓はギュッと目を閉じた。


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