契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
帰宅が午前0時を回るのはしょっちゅうだし、長期出張も珍しくない。

そもそも彼は家で食事をすることがないから、在宅していてもたいていは本棟二階の書斎か寝室にいる。

リビングのソファに座っているを見るのは数えるくらいしかなかった。

どうやら彼は、楓と同じように朝のコーヒーを飲みに来たようだ。

センターテーブルにコーヒーカップが置いてある。

戸惑いながらも楓は牛乳をカウンターに置いて、戸棚からインスタントコーヒーの瓶を出す。するとまた声をかけられる。

「コーヒー、淹れるのか?」

「はい」

「そこのマシーンを使えばいいのに」

そう言われて、楓は広くて物が少ないキッチンの隅に置いてある本格的なコーヒーマシーンに目をやった。

あるのは知っていたが、使ったことはない。

リビングダイニングにある物は自由に使っていいと言われているが、なんだか本格的すぎて使い方がよくわからないからだ。

さりとて、彼にやり方を聞くのも気が引ける。楓は首を横に振った。

「ありがとうございます。でも私、インスタントの方が好きなので」

「そう?」

彼は頓着せずに頷いて手にしていたタブレットに視線を戻した。

コーヒーを淹れ終えて、マグカップを手に楓がダイニングテーブルに座ると、今度は彼が立ち上がり「お先に」と楓に声をかけてから、二階にある自分の寝室へ戻っていた。

楓はホッと肩の力を抜いてコーヒーをひと口飲んだ。

パジャマのまま本棟に出てきてしまったのが、なんとなく申し訳ないような気持ちだった。

もちろん、ここは一応自分の家なのだからパジャマのままコーヒーを飲んだってかまわない。

彼からもそれを咎めるような雰囲気は微塵も感じられなかったけれど。

コーヒーをもうひと口飲み、リビングの窓の向こう朝日に照らされた広い庭を見つめながら、楓はさっきの和樹を思い出す。

和樹の方も会社で見る時とは違いスエットと無地のロングTシャツというラフな部屋着姿だった。

きっと楓と同じように寝ていた時の服装そのままで出てきたのだ。

それなのに少しもだらしないという感じがしなかったのはなぜだろう?

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