契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「いや、色は変えなくていい。彼女の髪色は今のままで綺麗だし、艶もそのまま残したい」

「かしこまりました。メイクのご希望ございますか? もともとお綺麗なお顔立ちですが、眉を少し整えさせていただければと思います。まつ毛にエクステを入れるメニューもございますが」

「眉はともかくまつ毛は必要ないだろう。彼女、顔立ちは綺麗だから、そこまで気合を入れなくてもいい。あと肌も綺麗だから自然な感じにしてやってくれ。それから自分でも再現できるようにおしえてながらやってほしい。使用したメイク用品は買い取る」

「かしこまりました」
 
オーダーが終わると美容師は、楓にケープをかけヘアカットの準備をする。
 
和樹が少し屈んで楓に向かって釘をさした。

「しっかり覚えるんだぞ。わかったな」
 
ここまできて嫌だと言うわけにもいかず、楓は素直に頷いた。頬まで熱くなってしまっているのが悔しかった。

さっき彼が楓の髪を触れて容姿を褒めたことに反応してしまっている。

褒めたとはいっても、べつに深い意味があるものではなく、業務連絡のようなものなのに。

今あるいいところはそのままに、改善すべき点について手を入れるのが、仕事の鉄則だ。
 
でも男性から褒められること自体ほとんどない楓には、刺激の強いことだった。
 
……気をつけなくては、と楓は思う。
 
相手は、桁違いのモテ男なのだ。なんとも思っていなくてもナチュラルに女性をその気にさせてしまうのだろう。

男性経験がまったくない楓にとっては危険な生き物だ。

「俺は隣の部屋で待ってるから、なにかあったら呼んでくれ」
 
美容師にそう言って彼は部屋を出ていった。

「旦那さま、無茶苦茶カッコいいですね」
 
美容師が感想を漏らすのを聞きながら、楓は気を引き締めていた。

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