生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜
第一章 フォークス領編

1.生まれ変わりの聖女様

「ルーカス、結界を張るから、ここを持ちこたえて!」
「わかった! リヴィア、君も国も守ってみせる!」

 私の婚約者であり、この国、クローダー王国の第一王子であるルーカス・クローダー様は私にそう言うと、近衛隊を連れて魔物を制圧に向かいました。

 この国は瘴気に侵され、常に魔物に悩まされていました。

 しかし、魔物を討伐する優秀な騎士団によって国は守られています。そして、私、リヴィア・ジーンは十歳で、数年に一度輩出される聖女に選ばれました。

 聖女は魔物を滅し、国を守る結界を張る聖魔法を使えます。そして、聖女は王位継承者と結婚をする習わしであり、私はルーカス様の婚約者になりました。

 国の取り決めた婚約でしたが、ルーカス様は国のことを考え、民を想い、努力なさる素敵な方でした。

 私たちは次第に想いを通じ合わせ、この国を共に守っていこう、と誓いました。

 そして結婚を控えた十六歳の年、瘴気が色濃くなり、『魔の国』との境を超えて、魔物が急増しました。

 私たちは結婚を延期し、騎士団を引き連れ、国中に結界を張りながら魔物討伐に出ました。

 二年続いたこの戦いは、今日で終わり。そう思っていました。

 最後の結界を張る所で、多くの魔物が王都に雪崩込もうとしていたのです。

 ルーカス様たちが魔物を防いでいるうちに、私は結界を張るために聖魔法を使います。

「結界よ、巡れ」

 キイインーー、という音と共に結界が広がります。しかし、張り巡らせる結界をどす黒い大きな手が阻みました。

「何……?」

 その奇妙な手を見上げると、赤い目がこちらを覗いていました。

「魔、王……?」

 百年前に現れて、聖女が撃退したと、歴史書で読んだことはありますが、この目で見るのはもちろん初めてでした。

 魔王は私の結界を捻じ曲げ、この国に侵入しようとしていました。

 私も負けじと力を使いますが、冷や汗と震えが止まりません。

 早くしないと、王都に雪崩れ込む魔物を抑えているルーカス様たちにも限界が来ます。

『僕たちで、ずっとこの国を守っていこう』

 ふと、ルーカス様の言葉が思い出されました。

(そうだね、ルーカス。この国をずっと守らないと!)

 私は意を決して、自分に頷きました。

「私の聖魔法全てを注ぎ込みます!」

 私は両手を魔王に向かって差し出し、聖魔法で攻撃魔法と結界を同時に発動させました。

 こんな無茶、命を削るけど、魔王の侵入を許したら、どのみち皆死んでしまうわ……! 

 魔王の力に抗うように、私は力の全てを注ぎ込みます。

「うああああーーー、いっけーーーー!」

 力を押し込むように、魔王を境界の向こう側へ押し込みます。境目まで光で押し込むと、私はすかさず結界で割れ目を閉じます。

 ずううううん、という大きな音と共に、境目は沈黙しました。

「やっぱりやってみないとわかんないわね」

 私は自分の座右の銘を呟くと、その場に倒れてしまいました。

 聖魔法を全て使い切りました。それは聖女にとって死を意味することでした。

「リヴィア!!」

 魔物を制圧したルーカス様が泣きそうな顔で私に走り寄ってくるのが見えました。

 ごめんなさい……

 もう、声が出せません。私は最後の力を振り絞ってルーカス様に微笑みました。

「国、守って…、ずっと、やくそ、く」
「リヴィア!!」

 ルーカス様に差出した私の手が、地面に落ちそうになる前に彼が受け止めてくれました。

 隣に私はいないけど。ごめんなさい。

 そうして、聖女・リヴィア・ジーンの生涯は十八歳で幕を閉じました。


「え……?」

 リリア・フォークス、十歳。

 昨日までは(・・・・・)普通の子供でした。

 昇り始めた太陽の陽射しがカーテンの隙間から漏れ溢れている部屋の中。

 私は急いでベッドから飛び起き、姿見の前まで走った。

「私だ……」

 鏡をじっと覗き込むと、金色のストレートロングに、金色の瞳。身長百四十ニセンチの十歳。昨日までの私と変わりない。なのに。

「私、生まれ変わったんだわ……」

 そう思えたのは、リリアとして物心がついた頃からの記憶もちゃんとあり、そして、リヴィア(・・・・)だという、記憶もあったからだ。

 急に『リヴィア』としての記憶を思い出し、頭が混乱する。すると、ニャーと私の友人である飼い猫のトロワが足元にすり寄ってきた。

「トロワ」

 名前を呼び、トロワを抱きかかえる。

「魂が呼び起こされたのか、リヴィア」

 抱きかかえたトロワが言葉を発した。

 トロワが喋った? えーと、トロワは猫で…

「俺のこと忘れたのか? リヴィア!」
「えっ……あーーー? トロワ?!」

 混乱する私に、懐かしい口調で呼びかけたトロワ。私は彼が、リヴィアの相棒だったことを思い出したのだった。
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