生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

16.ポーション作り

 ポーションの材料は、ごくありふれた薬草で作れる。大事なのは、『魔力』。

 『リヴィア』は聖女の魔力で、この国の医療のためにポーションをよく作っていた。

 子供たちに無償で医療を、とルーカス様と一緒に運営していた治療院はきっと彼がまだ守ってくれているに違いない。

 そんな昔の思い出を振り返りつつ、私はトロワと一緒にポーションの材料を集め、部屋に戻って来た。

 この辺境伯家のお屋敷でなら簡単に手に入ると思っていた。伯母様に、「こっそりポーション作りの練習をしたい」と言ったら、快く譲ってくれた。

 後で、リリアのポーション作りは失敗したと伯母様には言うとして。

「さて……」

 私は目の前の薬草と器具を見つめ、腕まくりをする。

 ポーションの作り方は覚えている。後は、『リヴィア』とまったく同じ物を作れるかなのよね。

 チラリとトロワを見ると、トロワは「大丈夫」と余裕な顔をして私の肩からくるりと浮いて親指を立てた。

 流石にフラスコ等の器具は無かったので、キッチンから片手鍋やらワイングラスを借りてきた。

 鍋に適量の薬草を手でちぎって投げ込む。水を注ぎ込むと、私は魔法で火を付ける。

 ちなみに空中での調理なので、火事の心配は無い。

「俺が火加減見といてやるから、リリアは魔力に集中しろよ」
「わかった」

 トロワの言葉に頷くと、私は鍋を見た。

 グツグツと煮え立ち、薬草で水に色が付き始めていた。

 私は鍋に手をかざし、聖魔力を注ぎ込む。

「そうそう。『リヴィア』の魂と共鳴させるイメージで」

 トロワのアドバイスを元に、『リヴィア』だった頃の作り方を辿りながら魔力を注ぎ込む。

 そして、完成したポーションを一気に冷却させると、準備した透明の瓶に注ぐ。

 液が注がれた瞬間、瓶は光を放ち、すぐさま虹色に変わった。魔法で封がされたキャップには、百合がかたどられていた。

「やった! 成功だわ!」
「だから大丈夫って言っただろ」

 ニャーン、とトロワが得意そうに言うので、私は彼の頭をナデナデした。

 鍋で作ったので、二本分出来てしまった。もう一本の方も『リヴィア印』のポーションが完成した。

 気付けば、夕食の時間だった。私は急いで一本を机の奥に隠して、もう一本のポーションを握りしめて部屋を出た。

「行ってこーい」

 部屋を出る前、トロワは私を見送ると、また眠りについたのだった。

 私が客間の前に到着すると、丁度ルーカス様のお食事が運ばれて来た頃だった。

 お部屋の警護はユーグ様から交代されて、違う隊員になっていた。

 でも今度はちゃんと、ルーカス様とお約束をしていたため、隊員はお辞儀をすると、ドアを開けて通してくれた。

 食事を運んだメイド長と入れ替わりで部屋に入ると、ルーカス様はまだベッドの上にいた。

 あんな無茶をしたんだから、当たり前か。

「何だ、本当に来たのか」

 私がルーカス様の顔色をじっと見ていると、彼はいつもの憎まれ口で言った。

「ルーカス様にお食事を取ってもらわないと!」

 フン、と気合を入れて言うと、ルーカス様は口の端を少しだけ上げた。

「物好きなやつだな」

 ルーカス様、少しずつ笑ってくれるようになった気がする。嬉しい。

「それでどうですか?」

 ルーカス様の前に並べられた食事を見ながら私は尋ねる。

「……食べられない」

 ルーカス様はあっさりと目の前の食事に降伏していた。

「もう、世話が焼けるなあ……」
「お前、この私に…いや、いい…」

 十歳の小娘からお子様扱いされたルーカス様は、私に文句を言おうとして途中でやめた。私に言っても仕方ない、といった顔をしている。

 何だか昔のルーカス様と『リヴィア』のようで、くすぐったい。

 それはさておき、私は小瓶を取り出し、ルーカス様に見せた。

「それは……! 本物か?」

 ルーカス様はポーションを見ると、目を見開き、今にも掴みかかってきそうな勢いだ。

「お母様から貰った物の中にあったのを思い出したんです。さっき、ルーカス様の物を見て」
「ロザリーから?」

 私は一番もっともらしい理由を考えて、ルーカス様に説明した。ルーカス様もロザリーなら持っていて当然で、それが娘であるリリアに渡ってもおかしくないと考えたのであろう。すぐに納得してくれた。

「で? それはお前の形見だろう。どうする気だ?」
「お母様だって有意義に使えって言います」

 私はルーカス様にそう答えると、彼の前に並ぶスープに、おもむろにポーションを垂らした。

「なっ?! おま……」

 私の行動に目を見開き、焦るルーカス様、面白い。

「これなら食べられるんじゃないですか?」

 得意げにルーカス様に言ってみせると、ルーカス様は額に手を抑えながら言った。

「リヴィアのポーションを何て使い方……」

 ヘナヘナとするルーカス様。

「お母様もリヴィア様も、きっと喜んでいると思いますよ?」
「そうだろうか……」

 ポーションの入ったスープを眺めながら呟くルーカス様。私は追い打ちをかける。

「それに、そのスープを残すってことは、リヴィア様のポーションを捨てるってことになるんですからね!」
「お前……やってくれたな」

 ビシッと台詞を決めた私に、ルーカス様は、諦めたように笑った。

 そして、手にスプーンを持ち、恐る恐るスープにそれをつける。

 私もドキドキしながらルーカス様を見守る。

 ぱくっ!とルーカス様の口にスープが運ばれた。

「……食べられる」

 ルーカス様は驚いたように、スープを眺め、もう一度口に運ぶ。

 それが何回か続くと、スープはあっという間に空っぽになった。

「やった! ルーカス様!」

 私は拍手しながらルーカス様を見ると、ルーカス様の目からは涙が溢れていた。

「……リヴィア……」

 やっと食事を出来たルーカス様。

 彼の時間はやっと動き出したのかもしれない。

 私は静かに涙を流すルーカス様に気付かれないように、そっと部屋を出た。

 ルーカス様なら『リヴィア』がいなくたって大丈夫だよ。それまで側にいるから。

 私はルーカス様がちゃんと『リヴィア』を忘れられるように、幸せになれるように。それまでは見届けたい。そう思っていた。
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