敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~

無意識にお客さん気分でいたが、七緒はこの家の人間だ。


「ううん、いいのよ、それで。だっていずれは聖さんと結婚するんだから」


孝枝の言葉に息を飲む。

(聖さんと結婚か……)

幸せボケしてうっかり忘れかけていたが、聖とのはじまりはお見合いや結婚を回避するためだった。

孝枝や聖の祖父はふたりの結婚を信じて疑っていないが、果たして聖にそのつもりはあるだろうか。

(――ううん、ないよね。結婚に興味がないっていってたし、どちらかといえばしたくない雰囲気だったもの)

七緒とは恋人止まり。その先はきっと考えていない。むしろ本物の恋人になって生活しやすくなり、好都合なのではないか。
聖は、七緒も気持ちは同じだと考えているだろう。

そう思い至った瞬間、胸の奥が微かに軋んだ。

(……やだ、どうして痛みなんて感じるの)

彼と想いが通じ合った、それだけでいいはずなのに。
< 214 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop