狂愛メランコリー

(……ああ、そっか)

 やっと気付いた。

 “もう一度やり直したい”という死に際の願いは、この3日間だけの話じゃなかった。

 彼に殺されないように、だけじゃなくて、理人との関係性を、って意味も込めて願ったのかもしれない。

「理人」

 私は静かにその名を呼んだ。

 不安気に揺れる色の薄い双眸を真っ直ぐに捉える。

 ────何度も、同じ3日間を繰り返した。

 でも、どれ一つとして同じ日なんてなかった。

 何度繰り返しても、努力しても、運命は変わらなかった。

 私は理人に殺されるのだ。

 分かり合っても、未来は変わらない。

 同じ時間に戻ってくる。

 だったら────。

「……もう、終わらせて」

 運命を受け入れるしかない。



*



 5限終わりの休み時間、私は席でぼんやりとしていた。

 机に頬杖をつき、窓の外を眺める。

 今さら理人の目を憚る必要もなかったのだけれど、向坂くんのもとへ行ったりはしなかった。

 一人でいたかった。

 この世界にこれ以上、未練が生まれないように。

『……少しだけ、時間をくれないかな』

 昼休みの裏庭で、理人はそう言った。

『2日後、屋上で話そう。最後(、、)に』

 時間が欲しい、と言った通り、その顔にはまだ少し躊躇のような迷いの色が見て取れた。

 けれど、どことなく澄み渡って清々しくもある。

『分かった』

 私は小さく笑んだまま頷いた。

 そこから突き落とされるのかもしれないし、最初みたいに首を絞められるのかもしれない。

 何かで殴られるのかもしれないし、刃物で刺されるのかもしれない。毒を飲まされるのかもしれない。

 何だって構わない。何も怖くはない。

 ただ、ずれてしまった現実の軌道修正をするだけ。

 歯車の歪みを元に戻すだけ。

 本来、死んだはずの私が、もう一度ちゃんと殺されるだけ。

 死に直す(、、、、)だけ────。
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