狂愛メランコリー

第5話


 昼休みを待って、私は席を立った。

 昨日と同じように、ランチバッグを片手に教室を出る。

「菜乃」

 廊下に出た瞬間、理人に声をかけられた。

 なんてタイミングがいいんだろう。

「どこ行くの? 中庭?」

「あ、えっと……」

 どう言おう?

 毎回きちんと約束しているわけではないが、理人とは毎日一緒に食べることが習慣となっていた。

 そこに向坂くんを交えるわけにもいかない。

 彼はたぶん、理人のことをあまりよく思っていないし。

「他のクラスの友だちと食べてくる」

 そう答えると、理人はかなり驚いたようだった。

 目を見張り「友だち?」と聞き返され、私は頷く。……正確には友だちではないのだけれど。

「知らなかった。菜乃にそんな子がいたんだ?」

「う、うん。昨日初めて話したの」

 理人はわずかに目を細めた。

「……どんな子? 女の子だよね?」

「えっと……、そうだよ」

 半ば焦りながら嘘をついた。

 男の子だと正直に答えれば、理人の“過保護”を加速させてしまうのではないか、と咄嗟に過ぎったのだ。

 真剣に表情を引き締めていた理人が、不意に微笑んだ。

「よかった。菜乃に悪い虫がついたら心配だからね」

 ……正直に言わなくてよかった。

 思わず息をつく。

 それほどに私を大切に思ってくれていることが嬉しい反面、理人の醸し出す圧のようなものが少し怖い。

「じゃあ、またあとで」

「う、うん」

 手を振った理人が自身の教室へ戻ったのを見届け、私は階段を上っていく。



「…………」

 心臓がどきどきしていた。

 指先が冷たく、意識して深く息を吸わないと身も心も落ち着かない。

 正直、緊張していた。少し、会うのが怖い。

 昨日のことに気を悪くして怒っているかもしれない。

 そのことを責められたり、あるいは昨日よりもひどいことを言われたりするかもしれない。

「!」

 果たして、向坂くんはいた。

 屋上の扉へ突き当たる最後の階段に、昨日同様腰を下ろしている。

 ただ、今日は段差に真っ直ぐ座っており、壁にもたれてはいなかった。見上げた途端、目が合う。

「……あ」
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