狂愛メランコリー

 もっと、ちゃんとしなきゃ。

 理人の助けがなくても、何でも出来るように自立しなきゃ。

 そう思うようになった。

 “王子”と言われる理人の隣にいても、堂々と顔を上げられるように。

 いつか彼のもとから離れても、心配させないように。

「……んなことねぇよ」

 ややあって、向坂くんが言う。

「昨日ここに来たのは? 怒ったのは? 今日謝りに来たのは? 三澄に言われたわけじゃねぇんだろ」

「それは……」

 それは、そうだ。

 私の意思でそうした。私の感情の機微(きび)がそうさせた。

「お前が選んだんだよ。自分一人で判断して、選択した」

 はっと目を見張る。……私が決めた?

「そしたら、ほら。俺って友だちも出来ただろ」

 私は向坂くんの双眸を捉えた。

 どんなことにも臆することのない、意志の強そうな黒い瞳を。

 ……嬉しかった。彼の言葉が。

 私の心をがんじがらめに縛っていたリボンが、少しずつほどけていくような気がした。

 強張っていた力が抜け、表情が緩む。

 私が笑うと、ふっと向坂くんも口端を持ち上げた。

 同じ表情でも、理人の柔らかい微笑とは違い、どこか力強い。

 彼の自信を少し、分けて貰えたような気がした。



 ぎゅ、と一層強くクッションを抱き締める。

『……頑張ってるよ、お前は』

 向坂くんの言葉が深く浸透していく。

 弱い気持ちに押し負けそうになりながらも、今日、勇気を出して彼に会いに行ってよかった。

 彼と出会えてよかった。

 彼と話せてよかった。

 彼の教えてくれる、私の知らない“初めて”が、自分自身を信じるきっかけをくれた。

「明日も会えるかな……」

 ……会いたいな。

 もっと話してみたい。

 もっと、向坂くんのことを知りたい。
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