狂愛メランコリー

「けどよ、だいたい相場は決まってんだろ」

 そう言った彼を、私は窺うように見やった。

「ループを抜け出すには、何かしなきゃいけねぇんだ」

「何か、って……?」

「さぁな。原因が分かればそれも分かんだろーけど」

 死に返るループに陥った原因────もしかしたら、それも私が忘れているのかもしれない。

 思い出すしかないのかな。

 殺されてしまった、過去の私の記憶。

 それを取り戻すことなんて出来るのかな。

 ……その後、本鈴が鳴る直前まで向坂くんと話していた。

 取り留めもない憶測を口にしては、不安がってしまう私を励ましてくれた。

 我ながら面倒な態度を取ってしまっていたと思う。

 けれど、私は今日殺される────かもしれないのだ。

 とても冷静ではいられなかった。

「じゃあ、また」

「おう。出来るだけ、前に殺されたときと同じ状況にならねぇようにな。俺もなるべく見張っとく」

「……ありがとう」

 彼の優しさを噛み締めながら、私は階段を下りていった。

 向坂くんは当たり前のように1限目をサボる気でいるようだ。逆にいつなら授業に出ているのだろう?

 彼のお陰で少し余裕を取り戻し、そんなことを考えながら踊り場に差し掛かったとき、不意に誰かの気配がした。

 向坂くんではない。

 彼はまだ、上にいる。

「菜乃」

 ぞく、と背筋に悪寒が走る。

 そこにいたのは、理人だった。

「理人……!?」

 どうして?

 何で、居場所が分かったの?

 教室に姿のない私を捜していたとしても、私の行き先として考えつくとは思えない。

 まさか“前回”の時点から、知っていたのだろうか。

 それなら、向坂くんのことも────。

「今日も早いね、菜乃。何か用事があったのかな」

 ……怖い。

 全身を這うような恐怖が皮膚を撫で、強張ってしまう。

 理人が浮かべる笑みも声色も、ひどく冷淡に感じられる。

「え、と、違くて……」

「何が違うの? 僕に隠し事してたこと? こそこそあいつと会ってたこと?」

 責めるような声色だった。

 見透かされていた。

 向坂くんとの会話も聞かれてしまったかもしれない。

「理人……」

「もういいよ、何も言わなくて。こんなの、僕の知ってる菜乃じゃない」

 彼の顔から表情が消えた。

 端正な顔立ちは変わらないが、普段の理人らしい優しい雰囲気は微塵もない。

 翳った面持ちのまま、光の射さない瞳で私を捉えている。

「終わらせようか、この世界も」
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