狂愛メランコリー

 理人に余計な心配をかけたくなかった。

 何より、それを理由に距離を置かれることになったら堪らない。

 だから、私一人が我慢すればいいのだと自分に言い聞かせてきた。

「……ふーん」

 向坂くんは短く答え、再びブレザーをはたき出す。

「だからお前、友だちいねぇんだな」

 がん、とショックを受けた。

 何が“だから”に帰結したのか分からないけれど、またしても向坂くんにそう言われるとは。

 自分で何も出来ないから、って意味かな?

 これまでは確かに、どんな嫌がらせを受けても何も言い返せずにいた。

 そんな弱い私だから……?

「で、今日はどんな感じだ?」

 私の心情などお構いなしに彼は続けた。

「……あ、理人のこと? 何ていうか、ちょっと変だなぁって思う。いつもと様子が違ってて」

「どんなふうに?」

「何か、大人しいっていうか。でも“前回”の記憶があるのは間違いないよ。それより前のことは分かんないけど」

 昨日の帰り道、それだけは確信した。

 あの聞き方といい、鎌をかけてきたことといい、私を探っていたのは間違いない。

「なるほどな。早いとこ、記憶の法則掴みてぇとこだな」

 向坂くんの言う通りだ。

 記憶の残る人と失う人の違いは何だろう。理人はどこまで覚えているんだろう。

 分からないことだらけだ。

(でも、たぶん……)

 今はまだ、理人もそれを掴めていない。

 だから、いつも私の記憶を警戒しているんだ。

 時間の問題かもしれないけれど、理人よりも先に答えに辿り着きたい。
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