壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


その想いに返せるものがあるのなら、見つめ返したい。

つっかえるものはもう、かき消してしまおう。


力技でぶつかれるのは、葉緩の長所なのだから。


「咲千代さん、私の幸せを邪魔するなら戦います! 大切な人の想いを阻止するなど邪道!」

「葉緩……」



嬉しそうに目を細めて笑う葵斗に胸がくすぐられる。




(あぁ、くそぅ。これってでろでろの甘々というやつではないですか?)



――負けていられない、と誇りが口角に現れた。




「ここは忍らしく戦わせていただきます」




机に飛び乗り、指を交差させた構えをとる。



「我流忍法・【桜花爛漫(おうからんまん)】!!」



ぶわっと桜の花びらが舞い、鮮やかに視界を隠していく。



「花!? くっ、なるほど。視界を狂わせる忍術か。こんなもの、我が忍術で」



手のひらを天井に向け、息を吐く。

その手を下すと風が吹き荒れ、葉緩に向かって突き進んでいった。



「忍法・【塵旋風(じんせんぷう)】!!」




――ビュオオオオオ!!



渦巻き状に回転しながら風が立ち上がる。

花びらを収束させ、視界をクリアにしていった。


それを見て葉緩は口角をあげ、勝機を見る。



「かかったり」



風をまとうは葉緩の十八番(おはこ)。

花も風も、乗っ取って葉緩は自分の力に変えていく。



「秘儀・【花嵐(はなあらし)】!!」

「うっ……キャアアアアアアッ!!」


凝縮された花びらの塊が弾丸のように咲千代にぶつかる。

風の勢いと花びらを力技で合体させた葉緩の忍術であった。


< 59 / 114 >

この作品をシェア

pagetop