壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


「で、連理の枝を折ったはずなのにどうして葵斗は匂いに気づいたわけ? だいたい、あなたたちは元々絡んでなかったんじゃないの?」

「……分かりません」

「うーん、俺の嗅覚が優れすぎてるとか?」

「わ、私だって優秀な忍びです! 嗅覚だって優れてる方なのですよ!!」



ポカポカと葵斗を叩くも、葵斗は笑って誤魔化すばかり。

一層咲千代のため息が深くなった。




「はぁ、なんで私は痴話げんかを見なきゃいけないの? アホくさ」

「痴話げんか……」

「ま、これを機に真面目に考えたら? あなたたち、あり方が歪だから」



葵斗から何の匂いも感じない。

繋がれたこの手は枝が結びついていないもののはず。

お互いに匂いを感じていなかったはずなのに、今は葵斗だけが嗅ぎ取っている。

葵斗の枝が残り、葉緩の枝が折れているからの現象なのか。

考えても答えは出なかった。


溶け始めた抹茶パフェのアイスを口に含み、もぐもぐと口を動かす。



(甘苦い……。苦いはずなのにもう葵斗くんの手を離すことが一番怖い)




***



夜の帰り道、咲千代と別れたあと葉緩は葵斗と並んで歩いていた。

繋いでいた手を離し、葵斗を見上げる。



「葵斗くん、ここまででいいです」

「そう? いつか葉緩のお家にお邪魔させてね?」



大胆な発言にあんぐりと口を開く。

じりじりと詰め寄ってくる葵斗に焦り、葉緩は両手を前に突き出し、後退っていく。




「……今しばらくお待ちを」

「なるべく早いと嬉しい。約束は有言実行しないと」

「ひゃわいっ!?」



いつのまにか壁に追いやられ、逃げ場所がなくなってしまう。

砂利を踏みながら葉緩は葵斗を見上げ、口角をあげてダラダラと汗を流す。


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