シンデレラは王子様と離婚することになりました。

そうだ、離婚しよう。



「ねぇ、そろそろ離婚しない?」



ふと、思い出したように顔を上げて、『そうだ、買い物にでも一緒に行かない?』的な軽いノリで離婚を口にした。


 いきなりの重いワードを投げかけられた我が夫は、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになっていた。



 最上階のペントハウスは見晴らしが良く、爽やかな朝日がリビングに差し込んでいる。
 我が身に突然舞い降りてきた幸運で極上な暮らしに、不満などない。


 漆黒の大理石が重厚感を醸し出しているシステムキッチンで、食洗器にお皿を入れながら離婚を口にしたけれど、夫が手伝わずに新聞を読みながら優雅にコーヒーを飲んでいた姿に苛ついたわけではない。


 小さい時から家事をやるのは私の仕事だった。
義母や義姉がネイルをしながら談笑している側で、私はあかぎれの指に血を滲ませながら、冷たい水でお皿を洗っていた。


 料理を作ることだって苦ではないのに、夫は料理も作ってくれることがあるし、食器も片付けてくれる。
気遣いをしてもらったことが初めてだったので驚き過ぎて恐縮した。


 週末の掃除はハウスキーピングのプロの方がやってくれるから、家はいつでも綺麗だし、私がこの家で課せられた任務は「妻」であることだけ。
 妻の仕事は求められておらず、肩書のみを必要とされている。
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