シンデレラは王子様と離婚することになりました。
これは、大変なことになったぞと思った。結婚するということは、そういうことなのだけれど、あまりの急展開ぶりに気持ちがついていかない。

「それは、会わないとまずいですよね?」

 一応聞いてみる。高城さんは圧のある笑顔で、「まずいです」ときっぱり告げた。
 仕方ない、これは断ることができない案件だ。

「わかりました、すぐに行きます」

「本部長には私から話しておきますので」

 高城さんはそう言って、本部長の席に行った。
 私は項垂れながら、佐伯さんのデスクへ向かう。

「お待たせしました。頼まれていたものです」

 佐伯さんに印刷したデータを渡し、受け取った佐伯さんは書類に目を通している。

「佐伯さん、すみませんが急用ができてしまって席を外します。なにかあったら携帯で呼んでください。会社内にはいるので……」

 佐伯さんは顔を上げ、私の顔をじっと見つめる。

「……大丈夫か? 顔が疲れているぞ」

「ははは……」

 引きつった笑いを浮かべる。心労が顔に出ているらしい。社長のおじい様に会うなんて怖すぎる。なんで結婚承諾しちゃったのだろうと早くも後悔し始めている。

「なにがあったかは知らないが、困ったことがあるなら相談しろよ」

「はい、心配していただきありがとうございます。頑張ります」

 半分魂が抜けた状態で、フラフラしながらエレベーターホールに向かうと、本部長と話を終わらせた高城さんと一緒になった。
 エレベーターの上のボタンを押す。エレベーターが来る間、佐伯さんは心配そうに私を見ていた。
 啖呵を切って出て行ったにもかかわらず、たった数時間で戻るはめに。
 最上階に着くと、重い足取りで高城さんの後ろについていった。
 中に入ると、応接のソファに腰をかけている社長と相対して、車椅子に座っている、やたら眼光が鋭い老人がいた。白髪交じりの髪を整えながら上質なスーツを着こなしている。威厳のある姿勢に漂う圧倒的な強者のオーラ。この人が社長のおじい様なのだろう。
 紹介もされていないのに私から話すのは失礼かと思ったので、黙って深くお辞儀をする。
 知的な光が宿る眼差しで、上から下までジロジロと刺すように見られているので、まるで値踏みされている気分だ。

「どこの令嬢だ?」

 と社長のおじい様は、私ではなく社長に聞いた。

「どこの令嬢でもありません。うちの社員です」
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