ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

1曲目「王子様のお世話係」


「Kanataかっこいいいい~!」
「ほんと、令和の王子様だよね~」

 陽キャな女子たちのそんな黄色い声を耳にして、私、小野律花(おのりつか)はお弁当を食べていた手をぴたり止めた。
 彼女たちはスマホを見ながら更に続ける。

「年齢とか色々と謎が多くてさ、そこがまたいいよね~ミステリアスっていうの? 目元のホクロがまたセクシ~!」
「それな~! でももうちょっと色々出て欲しくない? 配信とかしてくれたら絶対見るのに~」
「確かに。どんな声してるんだろう……あ~一度でいいからお近づきになりたい~~」

 ――Kanata(カナタ)、今人気急上昇中のモデル。
 身長187cm。その他年齢や経歴など全て謎に包まれているが、とにかく顔が整っていて『令和の王子様』と呼ばれている。

(皆は知らない。その王子様と、もうとっくにお近づきになれていることに)

 私はちらっと机に突っ伏している羽倉奏多(はねくらそうた)くんに視線を送る。

(しかも王子様は王子様でも、超絶ワガママ王子様だってことに……!)

 と、羽倉くんがのそりと起き上がった。
 分厚い眼鏡に黒マスク。長い前髪が目元を完全に隠してしまっている。
 彼はダルそうに立ち上がると猫背の姿勢で教室を出ていった。
 そんな彼に誰も気を留めない。
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