ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

「すみません! あの、落とし物です!」

 彼が振り返った。
 私は駆け寄り、でも返す直前に中に入っていた学生証をうっかり見てしまったのだ。

「え……」

 そこに映っていたのは、よく知る人物で私は目を見開いた。

「羽倉、くん?」
「……」

 このとき私の脳内は同じクラスの羽倉くんと人気モデルのKanataをなんとか結び付けようとフル回転していた。

(目元に酷いクマをつけて、前髪下ろして、眼鏡とマスクをすれば……確かにいつもの羽倉くんだ!)

「……」

 羽倉くんは眠そうな目で私を見つめた後で定期入れを静かに受け取った。

「あ……ごめ」

 ――と、その時いきなり唇が触れるギリギリまでその良い顔が迫った。

「バラしたら、あんたのこともバラすから」

 耳に低く響く声。

 驚き固まっていると、彼はスっと離れ、そのままスタスタと去ってしまった。

 私はプルプルと小刻みに震え、

(~~な、な、なんなのーーーー!!?)

真っ赤になって心の中で絶叫を上げたのだった。

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