ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
8曲目「不安」
「お疲れ様です。お先失礼しまーす」
バイトを終え店を出たときだ。
「お疲れ」
「え?」
声のした方を見て、私は驚く。
「羽倉くん!?」
以前のようにパーカーのフードを被った彼が手を振りながらこちらにやってくる。
私もそんな彼に駆け寄って訊く。
「どうしたの? お仕事帰り?」
フードの中の彼はKanataの姿だ。
「それもあるけど、やっぱりこの時間に女の子ひとりは危ないかなって。家まで送るよ」
「えっ! そんな、悪いよ。家までそんな遠くないし」
「送らせて」
「……っ」
優しく言われて、私はそれ以上断れなくなってしまった。
笑顔でお礼を言う。
「ありがとう、羽倉くん」
申し訳ない気持ちはあるけれど、大事にされているのがわかって嬉しかった。
と、彼がこちらに手を差し出した。
「え」
「行こう、りっか」
「……うんっ!」
少し気恥ずかしかったけれど、私はその手を握る。
そうして私たちは初めて手を繋いで歩き出した。