ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

9曲目「涙」


 震える手で記事をスクロールしていくと、夜の繁華街を手を繋いで歩く男女の写真が出てきた。
 ふたりとも帽子やサングラスで変装し分かり辛いけれど、男の方の背格好は確かに羽倉くんに似ていた。

 芹歌(セリカ)は、今中高生に大人気のモデルで最近はテレビにもよく出演している、所謂インフルエンサーだ。

「りっかちゃん、おは~!」
「!」

 その明るい声に我に返る。
 いつの間にか机の横に妹尾くんが立っていた。

「って大丈夫? なんか顔色悪くない?」

 顔を覗き込まれて私は慌てて画面を消す。

「おはよう。別に、なんでもないよ?」
「ならいんだけど。……や、今日はあいつと一緒じゃないんだと思ってさ」

 どきりとする。

「う、うん」
「あいつから、なんか話聞いた?」
「あぁ、えっと……」

 ボーカルの件だとはわかったけれど、頭が回らなかった。

 と、そのとき、また先ほどの女子たちが大きな声で騒ぎ出した。
 妹尾くんがそれを見て呆れたような顔をする。

「ったく、朝から騒ぎ過ぎじゃね? 気持ちはわかるけどよ」

 そうだ。
 妹尾くんもKanataのファンだった。知らないはずがない。
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