ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

「大丈夫だよ。みんな驚いてはいるけど」
『そう……りっかが嫌な目に遭ってないなら良かった』

 心底ほっとしているその声を聞いて、私はもう一度言う。

「うん、大丈夫」

 私なんかより、今大変なのは奏多くん自身だ。

『……俺、家もバレちゃったみたいで』
「え!? じゃあ」
『今事務所にいるんだ。学校からも電話来てて落ち着いたら話しに行くつもりだけど、多分、このまま退学になりそう』

 目を見開く。
 予想はしていたけれど、実際に本人の口から聞くとやっぱりショックが大きかった。

「そ、そっか……」
『ほんとは今すぐにでもりっかに会いに行きたいんだけど、しばらく会えそうにない』

 その沈んだ声を聞いて、私は精一杯の明るい声で言う。

「騒ぎが収まるまでは仕方ないよ。……電話は、出来るよね?」
『うん、いつもの時間に待ってる』
「うん! じゃあ後でね!」

 笑顔で通話を切り、私は歩き始めた。

(そっか……奏多くんと、もう学校では会えないかもしれないんだ……)


 ――あの場所で子守唄を歌ってあげることも、もう……。


 じわりと涙が浮かんできて、慌ててぶんぶんと頭を振る。

(こんなことで泣かない! しっかりしなきゃ!)

 私は睨むように星の見えない真っ暗な空を見上げた。

(私は奏多くんの彼女なんだから、こんなとき心配されるんじゃなくて、私が支えてあげられるようにならないと!)

 そうして、私はぐっと強く両手を握り締めた。

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