君のために出来る事－君に伝えたかった言葉と伝えられなかった事－

＃12 大好きな先輩の為に

　放課後、係の仕事が終わると、部活に行く為教室を出た。
わたしは、自分の入っている美術部の前に、園芸部に寄った。

わたしの家は園芸店をしている。
この学校の園芸部にも、花の種や苗木等、色々と購入して貰っている。
その為園芸部の部長とは、割りと顔馴染みでもあった。
園芸部の部長は三年A組の天宮神(あまみやじん)
天宮先輩は、わたしの入学を知ると、園芸部に入部して欲しかったらしく、美術部の入部に可成落胆していた。
「君みたいな、園芸知識に長けている人が入ってくれると、心強かったのになぁ…」

天宮先輩は卒業後の進路に、植物に関して学ぶ為、大学への進学が決まっている人だった。
わたしみたいな女の子にも、そんな風に言ってくれるのが嬉しかった。
園芸部には入れないが、自分の拙い知識でも役に立てて貰えたらと、手伝いを申し出たら、天宮先輩は凄く喜んでくれた。
わたしは、他の園芸部員の迷惑にならないよう、離れた所で雑用や手入れをしている。

その日も、園芸部での用事を済ませ美術部に行くと、部室から塚本部長が出てきた。
先輩の顔を見ると、わたしの心臓がどんどん早足になっていく。
「なんだ来たのか。丁度良い、お前買い物に行ってこいよ」
先輩がわたしに頼んでくる。
先輩からの頼まれ事は、なんだって嬉しい。
「それじゃあ行ってきます。あの…お金は？」
買い物リストを見ながら先輩に訊いた。
「それぐらい立て替えろよ。全く気が利かないな。さっさと行け！」
「判りました」
わたしは笑顔でそう言うと、買い物リストを持って教室を出た。

この近くにはコンビニも無く、一番近いのは、学校から続く長い坂道を下りた商店街だった。
『帰りは大変そうだな…』
その予想通り、先輩から頼まれたジュースやお菓子で、スーパーの袋がいくつも埋まっていった。
「先輩の為だもん、頑張ろう！」

そうは思っても、力も体力も無いわたしは、少し歩いては休み、また少し歩いては休みを繰り返していた。
学校までの長い坂道を、まだ上り始めてもいないうちから既にくたくただ。
「先輩が待ってるのに…手が痛い…」
何本もの重たいジュースで手は痛く、力も入らなくなって、その上息も上がって来た。

『早く帰らなくっちゃ…』
息が切れ、苦しそうなわたしに、誰かが近づいて来て、ジュースの入っている袋を持ち上げた。
わたしはびっくりして袋を握っている人の顔を見た。
「瀬戸くん？」
そこには予想外の人が立っていて、その上透かさず叱責されてしまった。
「お前バカじゃないのか？持てもしないのにこんな量買い込んで」