憧れのCEOは一途女子を愛でる
 祖父は碁を打ち終わったら帰ると口にしていたが、腕組みをしたまま悠長に構えていて、次の一手をなかなか指さなかった。
 今になって考えてみると、社長が来るまでわざとゆっくりと勝負を引き延ばしていたとしか思えない。時間稼ぎだったのだ。

「ここにも、祖父は最初から私たちふたりだけで来させようとしていたんだと思います。ご迷惑でしたよね。すみません」

「迷惑なのはうちのじいさんのほうだろう。俺とのことを押し付けるように君に頼んでたのが聞こえてた。本当にすまない」

「謝らないでください。社長はなにも悪くないです」

 社長から謝罪を受けるなんて想定外で、私はおろおろと恐縮するばかりだ。
 だけど、緊張は解けないものの辰巳さんのお孫さんが神谷社長でよかったと思う。まったくの初対面の男性だったならこんなに楽しいと思えなかっただろう。
 私にとっては社長と一緒に甘味処を訪れたという思い出ができただけで幸せだ。

「うちは父が早くに他界しているので、祖父が父親代わりなんですけど、私には結婚して欲しそうだったから……」

「俺のじいさんもそうだ。頼んでいないのに俺の結婚相手を捜してる。参るよ」

 辰巳さんは先ほど『見合いを勧めても嫌がる』と話していたので、きっと社長はいろいろと理由を付けて断っているのだと容易に想像できた。
 社長ほどの人ならば、その気になれば女性から引く手あまたなのは間違いない。
 今は結婚する気がないだけなのだから、辰巳さんがそこまで心配しなくても大丈夫なのに。

< 19 / 132 >

この作品をシェア

pagetop