憧れのCEOは一途女子を愛でる
「香椎さん、ちょっといいかな?」

 オフィス内に戻って来た伊地知部長が明るい笑みを浮かべて私を手招きした。
 白のインナーに濃いグレーのパンツスーツ姿の部長はとても凛々しくてカッコいい。

「店舗の照明について以前私と話したことがあったよね? あのときの資料、まだ持ってる?」

 一ヶ月ほど前に、伊地知部長と雑談を交わしているときにそんな話をした覚えがある。
 通常業務とは関係ないが、私が日々勉強する中で素敵だと感じた店舗用の照明の資料を見てもらったのだ。

「参考資料としてノートパソコンに保存しています」

「じゃあそれを持って、今すぐ隣の会議室まで来てちょうだい」

 どうしてわざわざ会議室に移動するのだろうと少々不思議に思ったけれど、じっくり話をするためなのかもしれないとすぐに頭を切り替えた。
 照明については以前にも興味を示してくれていたが、時間が経った今になって詳しく聞かれることになったのは意外だ。

「照明ですよね。えっと……これです」

 会議室の椅子にふたりで横並びで座り、パソコンを開けて画像データを伊地知部長に見せた。

「あのね、その前にあなたに話があるの」

 微笑んではいるものの、複雑な表情をして私の顔色をうかがう伊地知部長を目にした途端、背筋に嫌な予感が走った。
 なぜだか、なにかまずいことが持ち上がっている気がしてならない。

「どうされました?」

「正式発表はまだだけど、実は私、社内異動で商品部を移るの」

< 23 / 132 >

この作品をシェア

pagetop