憧れのCEOは一途女子を愛でる
「今日のことは単なるアクシデントでは済まされないです。きちんと始末書を提出して自分への戒めにします」

「わかった。でも……あまり思い詰めないでほしい。君は責任感が強いし、本当によくがんばってるよ」

 慈愛に満ちたやさしい声が聞こえてきて、涙腺が一気に崩壊しそうになる。
 だけど泣いてはいけないと自分に言い聞かせ、なんとか涙がこぼれ落ちるのだけは回避した。

「ありがとうございます」

 うつむいていた顔を上げると、目力のある社長の瞳と視線がぶつかる。
 こんなときでも胸がドキドキするなんて、私は本当にどうかしている。

「あのお客様と君は友達?」

「違います」

 即座に否定をした私に、社長はもっと驚くかと思ったけれど、意外にも静かにうなずくだけだった。

「以前に彼女に言われたんです。……友達ではないと。大学は同じでしたが、卒業の少し前から完全に交流は途絶えました」

「そうか」

「……信じてくれるんですか?」

 私の主張は百合菜とは真逆だから、どちらかがウソをついているのは明白なのに、社長はとまどうことなく私の言葉を受け入れてくれた。それがうれしくて再び涙目になってしまう。

「当然だろ。俺は君を信じる」

「社長……」

「そんな顔をされたら抱きしめたくなるけど、会社の中じゃ無理だな」

 困ったようにふわりと笑う顔も、やっぱり綺麗でキラキラとまぶしい。
 社長の瞳の中に私が映っている。それだけで充分に幸せを感じた。
 だけどひとつだけどうしても気がかりなことがある。

 ――百合菜の表の顔には騙されないでほしい。

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