恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました


「っ……!」


 目を開いたまま唇で受け止める柔らかい感触。それはほんの数秒で、離れ際チュッと軽やかな音を立てていく。

 近距離で目を合わせた彰人さんは微笑を浮かべ、私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「じゃ、行ってくる」

「あっ、は、はい!」


 ひとり動揺しながら慌てて車を降りる。

 彰人さんはひらりと手を振り、車を発車させた。

 走り去っていく車を見届けながら、ドッドッと激しく打ち付ける心臓の音に今更気づく。

 予告なしの出来事で、鼓動が暴走していることにすら気づけていなかった。

 優しく触れただけの口づけなのに体が熱い。


 偽装でも、夫婦となるから……?


 車から降りたままの場所で、しばらく鼓動の高鳴りを抱えながらひとり立ち尽くしていた。

< 131 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop