目に視えない私と目が見えない彼
ビクッと肩を震わせて、手の動きを止めた。そして、ゆっくりと振り返った。目が合うと同時に、一瞬時が止まったような錯覚に陥った。


振り返った彼の顔が彫刻のように綺麗で、思わず息を呑んだ。

・・・この人知ってる。

少し癖のある黒髪にハーフのような顔立ちで、誰が見てもイケメンだと思うだろう。

学校でカッコいいと有名な
最上 来衣(もがみ らい)先輩。

カッコいいと騒がれる理由が、今わかった。
近くで見ても遠くから見ても、目立つ容姿は、イケメンだと認めざるを得ない。


「・・・・・・なに?」


低く耳障りの良い声はやけに耳に残る。
声を投げかけられて、ハッと我に返り、そして見惚れていたことにやっと気がついた。


「・・・・・・えっと、携帯・・・・・・」

「・・・・・・そこ」

奥のテーブルを指さして、ポツリと呟くと、また前を向いて作業を始めた。


「・・・・・・あっ、私の携帯だ。
ありがとうございました」


携帯が自分の手に戻ってきたことが嬉しくて、声が自然と高らかになる。その声も彼には届いているのかわからない。返事もなにもなくて、早く出ていけと背中から伝わってくるようだった。


教室に戻ろうと廊下に向かって歩き出す途中で、キャンバスに目が止まった。

・・・・絵画に吸い込まれた。そう表現するのが1番しっくりくる。


絵画の世界に吸い込まれて、足が動かない。
その絵は、黒く、暗い。一筋の光さえないその絵は、不気味さと綺麗さが混ざり合っていて、絵画の世界の懐の深さが見て取れる。

絵に詳しいわけではない、好きなわけでもないのに、目が離せなくなった。
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