目に視えない私と目が見えない彼
田口先生って、あの田口先生だよね。

仏頂面で無愛想で元気がない。いつも眉間に皺を寄せていて近寄り難くて、怖いという印象が強かった。

田口先生は三年生の受け持ちなので、直接関わりはないけど、生徒からは驚くほど人気がないことは噂で知っていた。


・・・正直、ちょっと気が重いなあ、
田口先生って怖くて近寄りたくないんだよね。


心に重苦しいものが広がっていく。
嫌だと思っても担当するしかないので、なんとか自分の気持ちを奮い立たせる。


・・・頑張らないと。



スマホのバイブレーションが振動すると同時に【移動】その文字が画面に表示された。頭が文字を認識したと同時に、目の前が暗くなる。

そして、瞬きの後には見える光景が変わっていた。
心地良い風が頬を撫でる。

・・・・現世に移動してる。
死後の世界は匂いも風も感じないので、そよりと吹く風が心地よい。


いつもスマホに表示される画面と共に、急に移動するからびっくりしちゃうなあ。

現世の時間はまだ早朝。街は眠ってるように静かだった。大きく深呼吸をして、風と匂いを目一杯吸い込んだ。
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