幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
「親しくない人からは、そんなふうに見られてしまうかもしれません。ですが私は、朱里さんがどんな人か良く知っています。朱里さんだけでなく、瑛さんや雅お嬢様のことも、私は肩書で見ることはありません。私にとって皆さんは、優しくて明るくて、私の大切な方ばかりです。朱里さん、どうか見ず知らずの人にかけられた言葉ではなく、あなたを良く知る私の言葉を信じて頂けませんか?あなたはいつも瑛さんやお嬢様に、何の壁も偏見も持たずに接してくださいます。お二人があなたにどんなに救われているか、私は桐生家に仕える者としても、あなたに感謝しています」

朱里は、菊川の言葉を少し考えてみた。

「菊川さん。やっぱり瑛やお姉さんは、今まで色々な偏見の目にさらされてきたの?」

菊川は小さく頷く。

「ええ。物心つく頃から、からかわれたり冷やかされたり、嫌がらせを受けることもありました。思春期になると心を許せる友人も減っていき、特に雅お嬢様はふさぎこまれることもありました。学校でおしゃべりする相手はいても、親友と呼べる人はいないと。瑛さんもお嬢様も、いわゆる普通の公立高校に通われていましたからね。もちろんお二人が望んでそうされたのですが、やはり同級生に壁を作られてしまうこともあったようです。今も瑛さんは、大学でそれこそ毎日色々な人に声をかけられています。就職を斡旋して欲しいと」

朱里はうつむいた。

瑛と一緒だったのは中学が最後。
そこからは別々の高校と大学に通っていた為、学校での様子は朱里には分からなかった。

「そんな、私、知らなくて。だって瑛は会うたびにふざけてて明るいし、お姉さんもいつも私に笑顔で話しかけてくれるから」
「それはあなただからですよ、朱里さん。あなたが、お二人が心を許せる唯一の存在だからです」

思わず朱里は菊川を見つめる。

「私が?二人にとって唯一の?」
「ええ。お二人をそのまま受け止めてくださる、大切な親友なのです」

朱里の心が、ほんわかと温かくなる。

「朱里さん。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうかこれからもお二人の親友でいてくださいませんか?」

菊川にそう言われ、朱里は笑顔で頷いた。

「ええ。見ず知らずの人の言葉なんか気にしません。私はいつだって、瑛とお姉さんの味方です。二人がどんな人か良く知っているから」

そう言うと、菊川は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、朱里さん」
「いいえ。菊川さんに話を聞いてもらって、私も心が軽くなりました。ありがとうございました」

月の光の中、二人で微笑み合う。

「それじゃあ、おやすみなさい。菊川さん」
「おやすみなさい、朱里さん。良い夢を」

ふふっと笑いかけてから、朱里は頷いて窓を閉めた。
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